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常習犯

1991年4月、新入社員研修の最中でした。前年度はさまざまな部署のベテランに講師を頼んでいたものの、研修担当として2年目となり、自ら教材や進め方を考案し、主として一般職に業務の全体像を教える役割を担っていました。

10日前後の集中研修、毎朝早くから出社して準備をする必要がありました。

当時は有楽町線の平和台に住んでいました。西武池袋線の急行を利用していた頃に比べると、各駅停車で乗客の出入りの多い有楽町線内では、それほどひどい痴漢行為はありませんでした。

しかしその朝、乗り換えて五反田まで行く山手線で、気持ち悪い男に密着され、触られました。坊主頭で下ぶくれ、目が細く、ノーネクタイでワイシャツの襟が汚れていました。大混雑の中、高田馬場あたりでやっと振り切ると、今度は白いカーディガンの制服姿、ボブヘアで小柄なかわいい高校生に覆いかぶさりました。激しく触っており、その子が身をよじって困り切っているのがよくわかりました。

新宿で彼女が下車したので急ぎ後を追い、「アンタ、今、やられてたでしょ?」と確認しました。「はい」と答えて、彼女はどこか乗り換えのために行ってしまいました。

すぐに駅員さんに「痴漢です、私と高校生の子がやられました」と声をかけ、元の車両に戻りました。

「こいつです」と指をさすと、男は細かった目をカッと見開き、「オレが何をしたって言うんだよ!」と騒ぎ立て、ドア脇のポールにしがみつきました。

駅員さんが有無を言わさず引きはがし、両側から腕をとって事務室に連行しました。

そこで私が説得されました。

「あいつは絶対に常習犯です。警察に行って証言してほしいんです」と駅員さんから懇願されました。「遅れる事情は、我々から会社の上司に説明しますから」とも言われました。被害者の証言がないと、警察に送り込めないのです。後から被疑者を呼びつけることもできないそうです。

高校生に一緒に来てもらうべきだったと、激しく後悔しました。

「でも、私は新人研修の先生なんですよ。代わりがいないんです」と、たいへん残念に思いながら立ち去りました。

駅員さんたちは警察を呼べない怒りをこめて、「この痴漢ヤロウ!」と男にどなりつけていました。

せっかくなので、新人たちにその話をしました。

その後、そいつが山手線でまたおかしな挙動をしているのを一度だけ見かけましたが、あいにく現場を押さえることはできませんでした。

このときのことは今も悔やまれます。後日、誰かが捕まえてくれたならよかったのですが。