公正証書遺言の48時間
12月24日水曜日の昼頃、仕事上のパートナー行政書士から電話がはいりました。
余命1か月の高齢男性の公正証書遺言を至急で作成したい、ということでした。
とはいえ、もう年末が迫っていますし、普通は短くても営業日ベースで2週間くらいかかるものなので、年明けすぐにできるようにしてもらおうと考え、ご自宅から近そうな公証役場に電話を入れました。
すると、通常とは明らかに空気が異なるのを感じました。
書記の方から、
「明日の午前までに最低限の資料と遺言内容のword原稿を揃えてください。何が起こるかわかりませんから、年内に対応します。25日午後と28日ではどちらがいいですか」
と問われ、事態がものすごいスピードで動き始めました。
とりあえず、パートナーが訪問して作成した内容メモと手元の資料をPDFで公証役場に送り、翌日午前にはご家族に市役所で各種書類を取得してもらうことにしました。
書記さんはクリスマスイブなのに残業をしているようで、たびたび連絡をくれました。
翌日、ご家族からFAXで戸籍等の資料を受け取る段取りだったのですが、市役所でうまく請求できない、という電話がはいりました。
「すぐにそちらに行きます!動かないでください!」
普段着にすっぴんで、1時間くらいかかる市役所に向けて飛び出しました。
初対面でしたが無事に合流でき、書類を取得することができました。
ここまで来ると、もうFAXで書類を送るなどという次元ではありません。
「私が公証役場に持っていきます!」
その足で役場に向かいました。
すると、公証人と直接話をしてくれと言われました。対面してみると、通常は行政書士がwordで作った原稿を渡してそれを直してもらう手順なのに、昨日送信した聞き取りメモをもとに、もうほとんど完成品となった案文ができていたのでした。
「余命1か月じゃ、いつ何があるかわからないから。これまで何回、間に合わなくて悔しい思いをしたことか」
と力を込めて語られました。それは私も同じです。出張遺言を作成しようとしても、当日の体調や病気の進行によっては、完成しないまま他界されてしまうことが珍しくないのです。
さらに、28日のつもりでいた日程も、
「急な仕事もはいったから、明日25日の午後しかない」
と決断を迫られました。その場でパートナーとご家族に電話で確認、私は前々から予定されていた会議を急遽キャンセルしたのでした。
足りない書類も、別居のご家族に頼んでそこを埋めるものを送ってもらったりして、皆様のご協力により、25日の午後、ご自宅で無事に遺言を完成させることができました。
何より、ご本人が満足そうにしておいででした。
「この行政書士のお二人が短い間に駆けずり回って、いろいろやってくれたからできたんですよ」
と公証人もご家族に言ってくださいました。
ありがたいのですが、そうではありません。公証人さんの熱意と書記さんの緻密なフォローのおかげです。
公証役場への依頼から完成まで48時間。この神のような対応は、普通は不可能なので、同じことができるとはお考えにならないでください。
真っ白に燃え尽きた感じでしたが、2020年最後にいい仕事ができたことで、達成感でいっぱいでした。
※本件については、公証人、ご家族双方から、個人が特定されないことを条件に掲載の許可をとっております。