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結婚改姓の罠

1993年4月、夫が国内留学制度に合格し、総務部付となって東京に転勤してきました。夫の社宅で暮らすため、同居のタイミングで婚姻届を提出することに決めていました。できるだけ遅くずらしたかったのが本音です。

入居条件が法律婚、という規則には不満がありましたが、夫が掛け合って、東京在住の私が単身で先に社宅にはいれるようはたらきかけ、会社側も柔軟に対応してくれました。社宅で暮らしたおかげで貯金がずいぶんでき、早期に住宅も購入することができましたので、その点では社宅に感謝しています。

さて、婚姻届を出したことを、私の会社の人事課に伝えねばなりません。以前からしつこく、「まだかまだか」と、何度も聞かれていたからです。すると、待ってましたとばかりに、私の氏名の書き換え手続きを始めました。私本人はまったく望んでいない改姓です。しかし、雇用主側には、社員の氏名変更を速やかに管轄事務所に届け出る義務があり、怠ると罰則が適用されかねません。さまざまな法律に「改姓の届け出」の義務付けがあるために、本人がいくら旧姓でがんばろうとしても、会社から阻まれるのです。

こうして、健康保険証と年金手帳の私の姓は書き換えられてしまいました。社内で旧姓使用ができるとはいえ、人事システムや人事登録帳簿のメイン情報は戸籍姓にされ、その他にも雇用保険など、あらゆる登録情報が、頼みもしないのに書き換えられていきました。

さらに追い討ちがきました。給与振り込み口座はクレジットカードをはじめ、さまざまな引き落としと結び付いているため、名義を維持するつもりでした。また、同一人物とわかっているのだから、旧姓口座のまま振り込んでくれたらいいではないか、と交渉しました。すると、「それでは架空の人物に振り込むことになってしまいますから」と難色を示されました。

私は「百瀬まなみ」という名前で28年間生きてきました。それが、たかが戸籍上の結婚改姓をした瞬間に、「架空の人物」にされてしまうのですか?

望まない結婚改姓をした人々は、たいていどこかで同じようなことを言われて、深く傷ついています。こんな物言いは許されません。

給与の口座については、それまで振り込み先としていたメイン口座は改姓せずに死守し、どうでもいい口座をひとつだけ改姓し、そちらに変更しました。

その氏名変更自体もストレスでした。大学時代の友人男性が改姓口座のある支店に勤めていたので電話をしたところ、「おめでとうございます」と言われました。かちんときて、「何がめでたいんだ、人格の合法的な抹殺だよ!」と反射的に答えました。手続きに戸籍謄本が必要だと言われました。戸籍は無料ではありませんし、新本籍地は名古屋です。フルタイムで勤めながら簡単に準備できるものではありません。どうしたか覚えていませんが、夫を通じてどうにかして取り寄せたのだと思います。手続きを終えると、キャッシュカードも作り替えになったため、口座から500円引かれました。したくもない作業をさせられたうえに費用まで取られることに憤慨しました。

その後、改姓口座に給与が振り込まれるたび、社内のATMでほぼ全額を引き出し、同日中に駅前のメイン口座の支店に持ち込んで入金する、ということを長く続けました。