長身イケメン
大学時代に利用していた西武池袋線の急行ではひんぱんに痴漢に遭っていたため、すべてのケースを覚えているわけではありませんが、珍しいタイプとの遭遇は忘れられません。
夜の帰宅ラッシュ時間でした。通常、痴漢は後ろからおしりを触ってきます。ところが、このときは向かい合った長身の若いイケメン会社員風が、前から股にタッチしてきました。痴漢は普通、つかまえてみると情けない外見であることが多いです。その意味で、触り方もそうですが、見たことのないタイプでした。
どうするかと思って見ていたら、私のジーンズのファスナーを下ろし、中に手を入れようとしてきます。
さすがにこれはだめだろう、と、その手に深く爪を立てました。悪質な痴漢をされたときは、犯人であるとの確信が持てるまで一定時間行動を観察し、証拠を残すために手に引っかき傷をつける、素早く腕をつかんで叫ぶ、など工夫をしています。
しっかりと傷をつけた実感がありました。男は手を離し、背を向けました。
偶然なのか逃げるためなのか、男は間もなく到着した石神井公園駅で降りました。私の下車駅も同じです。
男は傷ついた手の甲をなめて走りながら、さかんに後ろを振り返ります。尾行するつもりはなかったのですが、たまたま私の自転車置き場が、同じ方向でした。笑顔でついていきました。
引きつった顔で遁走していくのがおもしろかったです。きっと、私のことが怖かったのでしょうね。